電車でせき込む男性に突き刺さる視線 捜して気付いた「あの日の私」

有料記事多事奏論

論説委員・田玉恵美
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記者コラム 「多事奏論」 論説委員・田玉恵美

 駅のホームから地下鉄の車内に足を踏み入れて、思わず眉間(みけん)にしわを寄せてしまった。かなり派手に咳(せき)をしている人がいる。

 その隣があいていたが、私はそこを避けて向かい側の少し離れた席に座った。発車後も咳は続く。立っている乗客の間から、その音が聞こえてくるほうを見ると、手書きの文字が目にとまった。

 「咳が頻繁に出て迷惑をおかけします アスベスト被害者です コロナではありません うつりません」

 ジャケット姿の男性がひざの上にのせたかばんに、そう記した紙をくくりつけていた。胸には名札もつけている。はっきり見えないが、名前や住所が書いてあるようだった。

 その人は数分後、次の駅で降りていった。申し訳ないような思いがいつまでも残った。なぜ、どんな気持ちであのような説明書きを持ち歩いているのか聞いてみたい。

 男性が降りたのは霞ケ関だった。中央省庁に陳情などの用事があったのではないかと見当をつけて捜していると、「心当たりがある」という人にたどりついた。地下鉄で見かけてから1カ月半後、その人が見つかった。

 都心から電車とバスを乗り継…

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