2023.04.19 | コラム

新型コロナが5類になったら何がどうなる?

感染症内科医Dr.伊東が解説!新型コロナ対応で変わること、変わらないこと

新型コロナが5類になったら何がどうなる?の写真

令和5年5月8日から、新型コロナウイルス感染症は、感染症法上の「新型インフルエンザ等感染症」から、季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行します[1]。この移行により、これまでのマスク着用、医療費、医療機関への受診、外出自粛などが変更されます。

このコラムでは、5類移行後の変更点や、感染症内科医として皆さんに押さえておいてほしい感染対策のポイントについて説明します。

なぜ5類に移行するのか?

5類への移行は、現在の流行の主流であるオミクロン株について、伝染性が非常に高いものの、発生初期と比較して重症化する人が減っていることや、現時点において変異株の出現によって流行が左右されにくくなってきたことが理由とされています[2]。

誤解されがちですが、5類になることでウイルスや疾患の特性が変わるわけではなく、ウイルスがいなくなるわけでもありません。現在の感染状況は幸い落ち着いていますが、再流行した際には依然として次のようなことが起こり得ることに注意が必要です。

 

【今後も起こり得る重大な状況】

  • オミクロン株の高い伝播性により感染者が急増する
  • →医療提供体制への負荷が高くなる
  • →結果として死亡者が増える

 

さらに、ワクチンや過去の感染に対する免疫逃避能を持つ変異株が出現し、流行する可能性もあります。今後、オミクロン株とは異なる病原性を持つ変異株が出現することも考えられます。このように、移行理由として挙げた現段階の科学的な前提が異なる未来になれば、迅速に対応を見直す必要がでてきます[3]。

 

そもそも5類とは?

感染症法では、対象となる感染症ごとに、1類感染症、2類感染症、3類感染症、4類感染症、5類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症及び新感染症が分類されています[4]。5類感染症は、「国が感染症発生動向調査を行い、その結果等に基づいて必要な情報を国民一般や医療関係者に提供・公開していくことによって、発生・まん延を防止すべき感染症」です。決して危険性が最も低い感染症という意味ではありません。実際、5類感染症には、侵襲性肺炎球菌感染症や侵襲性髄膜炎菌感染症のように治療されなければ死亡する可能性が高い重症感染症も含まれています。

 

マスク着用はどう変わる?

これまで、屋外ではマスク着用は原則不要、屋内では原則着用とされていましたが、3月13日以降は「マスク着用は個人の主体的な選択を尊重し、個人の判断が基本」を基軸とする方針となりました[5]。一方で、次の場面ではマスクの着用が推奨されています。

 

【今後もマスクの着用をしたほうが良い場面】

  • 医療機関を受診する時
  • 医療機関・高齢者施設等を訪問する時
  • 通勤ラッシュ時など混雑した電車・バスに乗車する時
  • 重症化リスクの高い人が感染拡大時に混雑した場所に行く時

 

そのため、各事業者がマスク着用を求める場合にはそれに従っていただくようにお願いします。

「感染したくない」、「周りの人に感染させたくない」という思いは誰もが共通だと思います。今回の変更は、決してマスクが感染対策に効果がないということではありません。マスクは、「会話や咳の際に自分の感染性粒子を飛ばさないようにすること」、そして、「周囲の感染性粒子を吸い込まないようにすること」を目的としており、科学的に有効な感染対策であることが分かっています[6]。新型コロナが国内で確認されてから3年となりましたが、すでに感染リスクが高い環境や行動については知見が集積しています。新型コロナの流行状況および自分の周囲環境に基づいて、マスク着用を個人が適切に判断してほしいと思います。

 

医療費は?

現時点では、外来・入院における検査および治療に係る費用はすべて公費で負担されており、患者個人の負担はありません。しかし、5月8日以降は、他の疾患と同じく、原則として保険診療になりますので、患者の負担が生じます[7]。なお、急激な負担増が生じないように、新型コロナ治療のための入院医療費については、当面9月末までは高額療養費の自己負担限度額から2万円を減額、新型コロナ治療薬の費用は当面9月末までは無料となっています。

 

ワクチンの費用は?

新型コロナのワクチンは現在、全額公費負担で個人負担なく接種することが可能です。5類移行後、将来的に個人負担が生じる可能性がありますが、当面において接種については、引き続き自己負担なく受けられる見通しです[2]。

 

発熱時はどう行動する?

5類移行とは少し離れますが、新型コロナを疑う症状があり、「医療機関を受診しようかな」と思った際には、まず国が承認したキットを用いてチェックするとスムーズです。発熱などの体調不良時に備えて、普段から「体外診断用医薬品」と記載のある新型コロナ抗原検査キットと、解熱鎮痛薬を常備しておくと良いでしょう。

 

【国に承認された検査キット一覧と、入手可能な店舗リスト】

 

検査結果に関わらず、症状が軽ければ基本的には自宅で療養が可能です。その際には、周りの人に感染させないようにマスク着用や手洗いなど基本的な感染対策をお願いします。なお、次の人は医療機関に連絡するようにしてください。

 

【発熱時に医療機関に相談したほうが良い人】

  • 重症化リスクの高い人
    • 高齢者
    • 持病がある人
    • 妊婦 など
  • 症状が重い人

 

相談するか迷うような場合は連絡してみるほうが無難です。

 

発熱外来はなくなるが、どこでも受診できるわけではない

さて、今まで、発熱など新型コロナに感染の疑いがある際には、自治体が指定する「発熱外来」を有する限られた医療機関を受診することになっていました。5類移行後は、発熱外来がなくなり、今よりも幅広い医療機関を受診できるようになる見込みです。2024年4月までに段階的に、外来診療について、現在の約4.2万の医療機関から、最大約6.2万医療機関となります。また、入院においては、現在の約3,000の医療機関から、すべての医療機関、すなわち約8,200の医療機関での診療を目指すこととされています[7]。

ただ、これについては懸念があります。これまで新型コロナの治療をする医療機関には、診療報酬や病床確保料の支払いなど、金銭的な優遇措置が取られてきました。しかし、今後はそれが段階的に無くなるため、逆に現状よりも新型コロナを診療する医療機関が減る可能性があります。

  • かかりつけがある人は、まずはかかりつけの医療機関に相談をしてください。
  • そうでない人は、ホームページや電話でクリニックに確認してから受診してください。
  • 自治体の受診相談機能は継続予定ですので、迷ったら相談してみるのも良いでしょう。(厚労省:相談窓口等の情報

また、5類になったからといって、隔離対策が必要なくなるわけではないため、必要なベッドがない場合、入院できないということが想定されます。さらに、多くの自治体で現場で行われている行政による入院調整が廃止になります。そのため、医療機関同士による入院調整が行われることになりますが、前述の理由も相まって、感染拡大時には入院先が簡単に決まらない事態が増えるかもしれません。

 

外出自粛はどうなる?

現在、感染者は7日間以上経過し、かつ症状軽快から24時間以上、濃厚接触者については5日間の外出自粛が求められています。また、4月14日に厚労省は5類に移行後、発症翌日から5日間は外出を控えることが推奨されるとする考え方を示しました。ただし、5類に移行すれば、外出の自粛要請はなくなります。

繰り返しになりますが、ウイルスや疾患の特性が変わるわけでは決してありません。自粛要請がなくなったからといって、他の感染症の場合と同様に、感染の可能性がある期間については、周りの人に感染を広げないように、療養することが望ましいと、個人的には思います。

 

さいごに

今後も新型コロナは流行を繰り返し、新たな変異株も出現してくるでしょう。5類への移行は、あくまでも"人間側のルール"であって、ウイルスには関係ありません。新型コロナのパンデミックはこれからも続くため、感染対策やワクチンは引き続き重要です。むしろ、5類になることで、感染者に対するケアが手薄になるため、これまで以上に個人の感染対策が重要になってくるのです。

 

参考文献

1. 厚生労働省. 新型コロナウイルス感染症について.

2. 令和5年1月27日厚生科学審議会感染症部会. 新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけについて.

3. 令和5年1月27日新型コロナウイルス感染症対策本部決定. 新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけの変更等に関する対応方針について.

4. 厚生労働省. 感染症法の対象となる感染症の分類と考え方.

5. 厚生労働省. マスクの着用について.

6. 第116回(令和5年2月8日)新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード. マスク着用の有効性に関する科学的知見.

7. 令和5年3月10日新型コロナウイルス感染症対策本部決定. 新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけの変更に伴う医療提供体制及び公費支援の見直し等について.

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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