2023.04.27 | コラム

女性や小児もサル痘に感染するの?

女性や小児におけるサル痘の特徴:正しい知識を身につけ、正しく恐れる(2023年4月27日現在)

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東京を中心に国内におけるサル痘感染が報告されており、 累計感染者数は120人を越えました(2023年4月27日現在)[1]。今のところ国内感染者は全員男性でその多くが30-40代です。世界においても約95%が男性と報告されています[1]。

加えて、世界的には、サル痘の感染者の8割ほどが男性と性行為を行う男性(Men who have sex with men : MSM)と報告されています。

それでは、女性や小児はサル痘に感染しにくいのでしょうか。本コラムでは、海外でみられた女性や小児のサル痘感染者の報告をもとに、症状や感染経路の特徴について解説を行います。

 

女性における症状は男性と比較して、性器の皮疹が少なく、他の部位の皮疹が多かった

2022年4月26日から11月21日までにスペインで報告されたサル痘感染者の数は7393人です。そのうち成人女性は158人(2.1%)でした。女性の感染者の年齢中央値は34歳で妊婦は2人でした。

 

感染経路について

  • 密接な性的接触:女性65.7%、男性92.9%

症状について

  • 性器の皮疹:女性52.0%、男性67.3%にみられた
  • 性器以外の部位の皮疹:女性71.2%、男性59.1%にみられた

 

性的接触により感染したケースは、統計学的に有意に男性に多い結果でした。

また、女性の症状は、男性と比較して性器皮疹の頻度が低い結果でした。一方で他の部位に皮疹がある頻度は高い結果でした。口腔内皮疹、全身症状、リンパ節の腫れは女性と男性で差はなく同程度の頻度でした。

この報告において、女性に死亡者はありませんでしたが、男性は2人死亡しました[3]。

なお、サル痘の感染者はHIVにも感染している可能性があることに注意が必要です。HIVに罹患している場合は免疫力が低下していることが多いので、感染した場合に重症化しやすくなります。今回の報告においてもHIVとサル痘の両方に感染している割合は男性40.8%であるのに対し、女性は4.4%と統計学的に少ない結果であったことが死亡数に影響を与えている可能性があります。

 

以上から、女性では男性と比較すると、性的接触による感染経路の割合が少なく、性器以外に皮疹を認める割合が高い結果でした。

 

小児では家庭内感染に注意

18歳未満の未成年の感染者の割合は1%ほどです。小児の頻度は高くありませんが、小児であることは、妊婦や免疫不全と同様に、サル痘の重症化リスク因子になるため注意が必要です。

 

スペインからの報告

スペインからの報告では、18歳未満の感染者の数は、4603人中16人(男性10人、女性6人)でした。このうち、4歳未満は4人で、7ヶ月、10ヶ月、13ヶ月、3歳でした。

 

感染経路について

  • 4歳未満:4人中3人は両親との家庭内接触、1人は感染経路不明
  • 13-17歳:12人中9人が刺青、ピアスのスタジオ内での汚染物質による感染、3人は性的接触による感染

症状について

  • 皮疹:16人全員にみられた
  • 発熱:16人中4人にみられた

 

16人中1人(4歳未満)のみ、外科的治療が必要な細菌感染症を合併しましたが、入院が必要な人は一人もおらず、後遺症なく回復しました[4]。

 

米国からの報告

米国からの報告では、18歳未満の感染者数は83人(0-4歳が16人、5-12歳が12人、13-17歳が55人)でした。

 

感染経路について

  • 0-12歳:感染経路が報告された20人(28人中)うち、19人は家庭内接触
  • 13-17歳:感染経路が報告された35人(55人中)のうち、23人は男性間性交渉の経験あり

症状について

  • 0-12歳:皮疹は体幹に多くみられたが、肛門生殖器部の病変はみられなかった
  • 13-17歳:60%の人に体幹部と肛門生殖器部の皮疹がみられた

入院について

  • 0-4歳:2人が皮疹と眼瞼病変のため入院
  • 5-12歳:1人が眼窩周囲蜂窩織炎と結膜炎のため入院
  • 13-17歳:6人が疼痛、二次感染、皮疹などの全身症状のため入院

 

全体の89%は入院不要で、集中治療が必要な人は一人もおらず、死亡した人はいませんでした[5]。

 

以上から、未成年者・小児における感染経路は大きく次の2つに分かれ、みられる症状も感染経路に準じた症状を示すことが分かっています。

 

  • 12歳以下の若年小児は保育者や同居家族との接触による感染が多く、皮疹は体幹に多いものの肛門生殖器部にはみられない
  • 思春期では成人と同様に性交渉時の皮膚・粘膜接触による感染が多く、皮疹は体幹や肛門生殖器部にみられる

 

さらに、感染経路不明の小児感染者の報告もあることから[6]、未知のコミュニティで未診断の患者や無症候性キャリアを通じて感染が起こっている可能性も否定できません。

 

おわりに

今回のコラムでは、女性や小児におけるサル痘の特徴を解説しました。世界的には、サル痘の主な感染者は、男性と性行為を行う男性(MSM)と報告されています。しかし、サル痘は、ウイルスが多く排出される皮疹部分が触れる状況であれば誰でも感染しうる感染症であり、今回解説したように、MSM以外でも感染のリスクはあります(感染経路について詳しくは「サル痘の感染はどのようにして対策したらよいのか?」をご覧ください)。

したがって、サル痘がMSMに多い性感染症であるということは一つの背景に過ぎません。また、特定の集団と感染症を結びつけて考えることは差別や偏見を生みかねません。このような風潮が広まれば、疑わしい症状が出ても差別や偏見を恐れて受診をためらってしまいがちですし、ひいては社会においても感染拡大の抑制を遅らせる原因となる可能性があります。

みなさんには、ぜひこのコラムを通じて客観的な情報を手に入れていただき、先入観を排除した判断と行動をとってほしいと思っています。

今後もコラムを通じてサル痘について解説していきますので、正しい知識を身につけ、正しく恐れましょう。

 

【サル痘関連コラム】

1. 世界中で感染拡大しているサル痘とは? 日本でも今後流行するのか?
2. サル痘の感染はどのようにして対策したらよいのか?
3. これってサル痘の症状?
4. (本コラム)女性や小児におけるサル痘の特徴

参考文献

1. 厚生労働省. サル痘について. (2023年4月27日)

2. WHO. Multi-country outbreak of mpox, External situation report #20 -13 April 2023. (2023年4月27日)

3. Vallejo-Plaza A, Rodríguez-Cabrera F, Hernando Sebastián V, Guzmán Herrador BR, Santágueda Balader P, García San Miguel Rodríguez-Alarcón L, Díaz Franco A, Garzón Sánchez A, Sierra Moros MJ; Spanish Monkeypox Response Network; Simón Soria F, Suárez Rodríguez B. Mpox (formerly monkeypox) in women: epidemiological features and clinical characteristics of mpox cases in Spain, April to November 2022. Euro Surveill. 2022 Dec;27(48):2200867. doi: 10.2807/1560-7917.ES.2022.27.48.2200867. PMID: 36695461.

4. Aguilera-Alonso D, Alonso-Cadenas JA, Roguera-Sopena M, et al. Monkeypox virus infections in children in Spain during the first months of the 2022 outbreak. Lancet Child Adolesc Health. 2022 Nov;6(11):e22-e23. doi: 10.1016/S2352-4642(22)00250-4. Epub 2022 Sep 2. PMID: 36058226.

5. Hennessee I, Shelus V, McArdle CE, et al. Epidemiologic and Clinical Features of Children and Adolescents Aged <18 Years with Monkeypox - United States, May 17-September 24, 2022. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2022 Nov 4;71(44):1407–11. doi: 10.15585/mmwr.mm7144a4. PMID: 36331124.

6. Tutu van Furth AM, van der Kuip M, van Els AL, et al. Paediatric monkeypox patient with unknown source of infection, the Netherlands, June 2022. Euro Surveill. 2022 Jul;27(29):2200552. doi: 10.2807/1560-7917.ES.2022.27.29.2200552. PMID: 35866435; PMCID: PMC9306258.

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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