「妻はサバイバー」の記者、精神科医・松本俊彦さんに語ったつらさ

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永田豊隆
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 摂食障害アルコール依存症、そして認知症。20年にわたる妻の闘病を記録した「妻はサバイバー」について、筆者の永田豊隆記者と精神科医の松本俊彦さんが朝日新聞「記者サロン」で対談し、当事者や家族らから多くの反響が寄せられています。5月末までの配信に合わせて、主な内容を前後編の2回に分けてご紹介します(司会は松尾由紀・ネットワーク報道本部次長)。

「記者サロン」5月31日まで配信中

心の傷を抱えた人に社会はどう向き合えばいいのか。家族や支援者の役割は何か。記者サロン「『妻はサバイバー』の記者 精神科医・松本俊彦さんと語る」では、妻の闘病に伴走した記者と依存症や自傷行為を専門とする松本さんが思いを語り合っています。上のリンクから申し込めます。

 松尾 永田さんが本を書いたいきさつは?

 永田 自分のプライベートを書くなんて考えたこともありませんでしたが、同僚から介護体験の連載を提案されて「やる価値はある」と考えました。こうしたテーマはまず現場に入り、当事者に会うこと自体が非常に難しい。妻の症状に付き添いながら記者として貴重な現場をふんできたとも考えられ、そこで感じた社会の課題を浮き彫りにすることは報道の役割だと思いました。

 妻が難色を示すならやめるつもりでしたが、本人は「私みたいな人を出したくないから、書いて」。だから書けたのは妻のおかげです。

 松尾 松本さんはどんな感想を?

 松本 わがことのように受け止めました。かつて依存症の専門病院で永田さんの奥様のような患者に出会いました。依存症も摂食障害も自傷行為もあって、時々記憶が飛んで別人のようになる。従来の依存症治療が通用しなくて、大変でした。永田さんの試行錯誤は実は私も経験してきたのです。

 松尾 永田さんが一番つらかったことは?

 永田 2019年に断酒するまでの1年です。アルコール依存症が深刻になり、10年以上診てくれた精神科病院が「依存症は専門性が高い」として依存症専門の精神科病院に紹介。しかし、酔いを切らさず飲み続ける「連続飲酒」がひどく、専門病院の治療プログラムに通えない。肝硬変など身体合併症が悪化しましたが、内科では「飲める体にして帰すだけ」と治療拒否を通告されました。

 一般の精神科、依存症専門の精神科、内科など一般診療科のいずれも頼れず、「このまま死を待つしかないのか」と絶望しました。

 松尾 一般精神科と依存症専門、精神科と一般の診療科の「すき間」。松本さん、思い当たるところはありますか?

 松本 思い当たります。もちろん1人の医師がすべてをこなすのは難しいですが、専門性を高めるほどすき間が増えるのも事実。例えば地域に依存症の専門病院ができると、その病院以外の医者が依存症を診なくなる。

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