子どもの心の不調、受け止める 端末を活用、メンタルヘルスの授業も

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上野創
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 小中高校生の自殺が2022年は計514人と、統計のある1980年以降で最多でした。子どもが死にたい気持ちを抱いていても心の内を明かさず、周囲が全く気付けない場合もあります。学校では、心の不調への対応やSOSの出し方を伝えたり、タブレット端末を使って教員がリスクを察知したりする試みが広がっています。(上野創)

養護教諭や担任から「話してもいいんだよ」

 埼玉県教育委員会は、精神科医で東京大大学院教育学研究科の佐々木司教授(健康教育学・精神医学)と連携し、2021年度から生徒への「メンタルヘルスリテラシー向上」事業に取り組む。

 養護教諭が授業を行い、心の不調や病気は誰にでも起こることや、抱え込まずに相談する大切さを動画やワークシートで伝える。友達からつらい気持ちを相談されたときの対応も、ロールプレーで体験する。事業の対象は、研究推進校の中学8校、高校5校の1年生。夏休み前後や12月に行う。

 県立草加東高の道上(みちがみ)恵美子養護教諭は「不調を話してもいいんだよと授業で伝えた後は、教員に相談する生徒が確実に増える。不調のない子も、友達の話を聞く支援者になる。授業に担任や学年主任が関わり、スクールカウンセラーも含めて学校全体で意識を共有できたことも大きい」と語る。

 研究推進校でアンケートをしたところ、「心の不調を感じたら相談しますか?」との問いに「はい」と答える生徒が授業前の約3割から5割に増えた。「自分や友人のことを話しに来る生徒が増えた」との声も教員から届く。

 県教委生徒指導課の担当者は「心の不調を抱える子どもたちを早めに把握し、支援する必要性を感じていた。このような教育は自殺予防だけでなく、不登校やいじめなどの予防にも効果があると期待している」と狙いを語る。

 事業では、タブレット端末で年1~3回、心の状態についても尋ねる。「生きていても仕方がない」と思うかを問う項目もあり、要注意の結果が出たら養護教諭が面談する。保護者と相談し、医師や保健師の協力を得た例もあった。

 取り組みは生徒向け以外でも。「死にたい気持ち」を生徒から打ち明けられた時の対応などを学ぶ教職員研修を開き、保護者には入学式当日に精神不調や自殺リスクの知識を伝える。県教委は来春から、他の学校に広げることを目指す。

タブレットで次々質問する「RAMPS」

 眠れていますか? 食欲は? 気分が落ち込む、ゆううつ、絶望的な気持ちになることはありますか? 生きていても仕方がないと考えたことは? 自分を傷つけた経験は? つらいときに相談できる人の人数は?――。

 タブレット端末に次々と現れる問いに、生徒が「はい」「どちらかといえば はい」「いいえ」などの丸印をタッチして答えていく。5年前から学校の主に保健室で活用されているシステム「RAMPS(ランプス)」だ。

 質問は2段階で、1次で高リスクとなった生徒には、養護教諭が自殺に関わる詳しい質問をする。リスクが高いという結果は、管理職や担任にもメールが自動送信される。

 生徒が助けを求めやすく、教員が自殺リスクを見逃さなくなることを目的に、東京大大学院教育学研究科の北川裕子特任助教(健康教育学)が佐々木教授と開発した。

 自殺の具体的な準備や過去の…

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