なぜ日本社会は心を支えられないのか 世界を見てきた精神科医が語る

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聞き手・高久潤
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 国内外の紛争地や被災地で約30年間、人々のトラウマに向き合ってきた精神科医、桑山紀彦さんがたどり着いたシンプルな結論がある。

 「心の形は世界中どこでも同じ」

 宗教や文化の違い、貧富の格差……。世間では相互理解の難しさが語られ、「違い」が強調される。

 しかし桑山さんは、自分の経験をもとに、戦争や災害、そして身近な暴力で傷ついた心は、同じプロセスで治せると断言する。

 しかも、ほとんどのケースで専門家は不要で、周囲の支え合いで治せる、と。

 ただ、この支え合いがうまく機能しない社会が日本だという。

 どういうことなのか。桑山さんが定期的に活動するパレスチナ自治区で聞いた。

 ――トラウマを癒やすプログラムを世界中で実践されて、約30年になります。そもそも、トラウマとは何ですか。

 私が精神科医を志した原点に、自分自身のトラウマ体験があります。小学校から高校までの12年間、僕は教室の中でずっと「浮いて」いました。友だちはできないし、体が思い通りに動かせないという感覚もあって、兄に「お前は歯車が1個欠けている」と言われたこともあります。

 その発言に反発するというより、「なるほど、そういうことか」と納得しました。みんなに嫌われて、こんなにも毎日に希望がないのは僕の頭がおかしいからなんだ、と。

 自分を治したいと思って、精神科医になるという目標を見つけたんです。

 トラウマとは、いわば、「凍りついた記憶」。心に刻印されたそれは、決して消え去ることはありません。何度もよみがえり、そのたびに苦しくなる。時間が経てば軽くなるものでもないです。

 世界各地の紛争地や被災地で活動を続けてきた精神科医の桑山紀彦さんにとって、唯一、心のケアが難しい国が日本だといいます。記事の後半では、東日本大震災の被災地での体験を例に、その理由を語っています。

トラウマは「資源」

 ただ私は、トラウマは「資源」だとも考えています。

 ――トラウマが資源とは、どういうことでしょうか。

 トラウマをバネにして、人生…

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