異例の売れ行きと言われる認知症の本がある。「認知症世界の歩き方」。デザイナーの筧(かけい)裕介さん(48)が著した。
カラフルで、文字の大きい著書には、乗るとだんだん記憶を失う「ミステリーバス」や、人の顔を識別できなくなる「顔無し族の村」などのストーリーが描かれている。
2021年9月に初版、23年3月に実践編が発売され、売り上げは計20万部ほど。
認知症関連の書籍は多くあったが、本人の目線で気持ちや困り事を表現したものは見つからなかった。一方、「認知症になると、何もできなくなる」といった偏見や誤解は社会に満ちていた。
認知症のある人の心と体にはどんな問題が起きて、何に困っているのか。家族や介護する人に本人の思いを理解してほしい、と「本人の生きている世界」を旅行記のようにした。
認知症と関わるきっかけは2018年。慶応大学のグループなどによる「認知症未来共創ハブ」という活動に加わったことだ。
「認知症の課題解決は、デザイナーの仕事だ」と確信した。
自身もインタビューした当事者100人の声をもとに、困り事とその背景にある、「時間経過の感覚が乱れる」「自分の考えを言語化できない」など44の心身機能障害を結びつけて分析した。
例えば、トイレに失敗した人がいる。
「おむつにしよう」ではなく、なぜ間に合わなかったのを推理する。
場所を見つけられなかったならば、トイレを示すわかりやすいサインをつける。便座の場所や形を把握しづらい場合は、便器や便座に赤や黄の目立つ色のカバーをつける。
「トラブルの背景にどんな障害があるかがわかれば、解決策は見いだせます」
「ふざけている」非難のリスク感じつつ
介護業界の外にいた自分だから、できた面もある。
「本を読んだ当事者やこの世…
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- 【視点】
「認知症世界の歩き方」をベースにしたワークショップに6月、参加しました。その中身もすばらしかったのですが、学ぼうとする介護職や家族を介護する人たち、参加者の熱意に圧倒されました。それぞれに詳細にお話を聞けたわけではありませんが、「これまでの
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