「わるいひみつ」打ち明け救われた キツネくんの絵本が教える性被害
Re:Ron連載「こころがケガをするということ」 第2回
こころのケガにつながるさまざまな出来事のなかでも、性暴力は、最も深刻なこころのケガにつながりやすい。なぜなら、最も重篤な人権侵害となるからである。また、性暴力は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の発症リスクが高い出来事の一つでもある。
一般的に女性の方がこころのケガが大きくなりやすいことは、この連載の前回で述べた通りであるが、こと性暴力に限っては、男性の方がPTSD発症のリスクが高い。最近は男性の性被害が取り上げられるようになってきたが、性被害を体験した男性のPTSD発症リスクは、戦闘を体験した男性よりも高いことが報告されている。
内閣府が実施する「男女間における暴力に関する調査」(2020年度)によると、わが国の20歳以上の女性の6.9%、男性の1.0%が、強制性交の被害経験を報告している。男女合わせて24人に1人が被害を受けているということになるが、実際はさらに多くの事例が潜在していると推察されている。
被害相談できない……背景に伝統的な「男らしさ」も
また、女性の約6割、男性の約7割は、誰にも相談していないと回答している。その理由として挙げられているのは、恥ずかしくて誰にも言えなかった、自分さえがまんすればと思った、そのことを思い出したくなかった、相談しても無駄だと思った、どこに相談すればよいかわからなかった、相手の行為が理解できず(あるいは愛情表現だと誤認し)被害であると思わなかったなど、多岐にわたる。
性暴力は非常に衝撃的な体験であるにもかかわらず、相談することさえできないという二重の困難を抱えているのである。特に男性ではその傾向が強い。その理由の一つは、いわゆる伝統的な「男らしさ」が、強いことや弱音を吐かないというイメージと結びついているためである。被害者であることを受け入れることは、自らの男性性の否定であり、強い恥の気持ちを惹起(じゃっき)させてしまうのだ。
もう一つの理由は、性暴力の被害者は女性であるという社会の固定観念である。多くの人が「レイプ」という言葉から女性被害者を思い浮かべるだろう。性暴力の相談機関では、妊娠を防ぐ「緊急避妊法」が紹介されており、やはり相談対象は女性であるという印象を与えやすい。
診療の場で出会う性暴力被害に遭った少年の中にも、「性暴力の被害者は女性だと思っていたから自分が被害者だと認識できなかった」とか、「相談機関のホームページを見たが、自分には当てはまらないような気がした」と語る人は少なくない。
さらに、年少児が性被害を受けた場合、その行為が何を意味するのかわからないまま、恐怖や混乱状態に陥ることが少なくない。特に加害者が顔見知りの場合は、幼い子どもなりにさまざまな葛藤が生じる。
男の子の被害描いた絵本「キツネくんのひみつ」
その状態をよく表しているのが、男の子の被害を取り上げた「キツネくんのひみつ」(2023年3月、誠信書房)という絵本である。原作は、21年7月にドイツで出版された。
キツネくんは、近所に住むオ…
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