声失くしたダウン症の息子 「幸せを感じる力」が父の心を変えた

鈴木優香
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 ダウン症の息子のすべてを受け入れ、小さな出来事に幸せを感じながら生きるすばらしさを伝えたい。そんな思いがこもった本が出版された。

 タイトルは「お父さん、気づいたね! 声を失(な)くしたダウン症の息子から教わったこと」(地湧社)。著者は福岡市東区の田中伸一さん(53)だ。

 息子の彰悟さん(27)は生後まもなく、ダウン症と診断された。生後2カ月で気道がふさがり、呼吸困難に陥って何度も生死をさまよった。

 手術を重ねながらも、再び声が出せるよう望みをつないでいた。しかし、気管の病気は治らず、彰悟さんが7歳の時、伸一さんたちは声を諦めた。周りを見て、話したそうに口を動かす彰悟さん。「お口ぱくぱくしても声は出らんのよ」。母親の言葉に、口を動かすのをやめた。

 手術は痛くてつらいはずなのに、じっとこらえるばかり。一人で自由に出かけることも、言葉で思いを伝えることもできない。

 それでも、彰悟さんは、いつもにこにこ笑顔で、幸せそうにしているという。大好きなキャラクターショーや絵画教室に行く時はもちろん、何もなくても跳びはねたり、体を前後に揺らしたり、全身で幸せであることを表現する。

 食事が始まって10分を超えても手を合わせての「いただきます」を続け、寝る前には深いお辞儀をする。食べ物を口にできることや、今日一日を楽しく過ごせたことへの感謝を表現しているようだ。

 伸一さんは、彰悟さんには「耐える力や、受け入れる力、感謝する力が備わっている。それが幸せを感じる力」だと思うようになった。「元気に生きて、笑顔でいてくれたらいい」と、等身大の幸せに目を向けるように、伸一さんの心境も変わっていったという。

 彰悟さんが10歳の頃から始めた書道や絵画の作品には、自由と楽しさがあふれ、今は毎年個展も開く。

 「自然と周りの人に安らぎや幸せ、愛を感じさせる人間になることが私たちの人生のゴール」と伸一さん。「本を読んで、幸せや生きる意味とは何かを考えてもらえたら」と話す。(鈴木優香)

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