2023.08.18 | コラム

サル痘(エムポックス)は、どうやって診断するの?

サル痘(エムポックス)の検査:正しい知識を身につけ、正しく恐れる(2023年8月18日現在)

サル痘(エムポックス)は、どうやって診断するの?の写真

これまで、「エムポックス(サル痘)関連コラム」では、エムポックスの流行状況、感染経路、感染対策、症状などについて解説してきました。それでは、エムポックスを疑われた時、どのような方法で診断されるのでしょうか。

また、病院ではどのようなことを聞かれるのでしょうか。本コラムでは、受診をしてから診断されるまでの流れについて説明します。

エムポックスかもしれないと思ったら何科を受診するか

基本的にはどの医療機関でも診療を受けることはできますが、エムポックスの診療に慣れている医療機関でなければ、診療がスムーズにすすまないかもしれません。しかし、患者さんからすると、どの医療機関がエムポックスの診療に慣れているか分からないと思います。そのため、かかりつけの医療機関がある場合は、まずはかかりつけの医療機関を受診して、かかりつけの医療機関から、エムポックスの診療に慣れている医療機関を紹介してもらうことをおすすめします。

かかりつけの医療機関がない患者さんもいるかと思います。その場合は、近くの保健所に受診先を相談することをおすすめします。保健所は、その地域の中で、エムポックスの診療に慣れている医療機関を把握していることが多いためです。

エムポックスの症状が多岐にわたるため、何科を受診したらよいか迷うこともあるかもしれません。エムポックスは一般的には、性行為時の接触によって感染し、発熱や皮疹の症状を認めることが多い感染症なので、「感染症科」、「性病科」、「皮膚科」、「内科」などの受診をおすすめします。 

 

受診前のお願い

受診の前にお願いしたいことが1つあります。それは、事前に電話で「エムポックスかもしれない」旨を医療機関に伝えるということです。医療機関は、エムポックスが院内で感染拡大しないように感染対策を行いますので、受診前に事前に連絡を頂けると大変助かります。

 

病院で何を伝えるか、何を聞かれるか

いつからどのような症状があるのかについて伝えてください。特にエムポックスの特徴的な症状である、発熱、皮疹、リンパの腫れなどに注意しておいてください。

また、エムポックスは主に性行為時の接触によって感染しますので、医師から性交渉の詳しい内容や、性交渉の相手などについても聞かれるかもしれません。これらの情報は話しをすることに抵抗があるかもしれませんが、診断のために必要な情報でもあり、また、もしもエムポックスに感染していたら、感染の拡大を予防するために大切な情報なので協力してもらえると助かります。  

問診や身体診察からエムポックスが疑わしいとなったら、お医者さんは詳しい検査をするために、身体から「検体」を採取します。

 

エムポックスはPCR検査で診断する

エムポックスを確定するための診断方法は、新型コロナウイルス感染症の診断でも馴染みが深いPCR検査になります。病原微生物(今回はエムポックスウイルス)の遺伝情報をもつDNAを複製して増幅させて検査を行います。PCR検査を利用することで、ごく微量な検体であっても、そこに含まれるわずかなDNAから、特定の配列だけを短時間で増やすことで目的の微生物の遺伝子配列が存在しているかを知ることができます。PCR検査は、新型コロナウイルス感染症やエムポックス以外にも多くの病原微生物の診断方法として幅広く用いられています。

エムポックスの他の診断方法として、ウイルス分離、ウイルス粒子の証明、抗原検査や抗体検査などの方法も知られています。しかし、ウイルス分離やウイルス粒子の証明は技術が難しく、一般的に実施することができません。抗原検査や抗体検査は、交差反応といって、エムポックス以外の感染症でも陽性となることが多く、エムポックスのみを診断することができません。そのため、エムポックスを確定するための診断方法は、一般的にはPCR検査のみになっています。[1]

エムポックスのPCR検査を行う場合、具体的には身体のどこから検体をとるのでしょうか。新型コロナウイルス感染症の場合は、鼻咽頭や唾液を用いられることが多いですが、エムポックスの場合では、皮膚病変が最も適切であると報告されています。

欧州16カ国43施設の528人の患者を調べたところ、検体別のPCR検査の陽性割合は次の結果でした [2]。

  • 皮膚または肛門・陰部の病変:97%
  • 鼻咽頭検体:26%
  • 血液:7%
  • 尿:3%

 

また、スペイン等の多国籍患者569人のPCR検査の陽性割合を検体別にまとめた他の報告では次のような結果でした[3]。

  • 皮膚病変:100%
  • 直腸ぬぐい液検体:95%
  • 鼻・口腔咽頭ぬぐい液検体:86%
  • 唾液:76%
  • 精液:75%
  • 尿:65%

 

さらに、スペインから181人の患者において、皮膚病変と鼻咽頭ぬぐい液検体のPCR検査の陽性の割合とウイルス量を比較した研究があります。この研究結果では、皮膚病変のほうがPCR検査の陽性割合が高く(皮膚病変98.9% [176/178人]、鼻咽頭ぬぐい液検体 73.9% [82/111人])、皮膚病変におけるウイルス量が統計学的に有意に多い結果(p <0.0001)を示しました [4]。

以上のように、皮膚の病変を検査してもらうほうが診断に最適と考えられています。その他には直腸ぬぐい液検体や鼻咽頭ぬぐい液検体も適していると報告されています。つまり、皮膚に変化がない人では肛門や鼻の奥を検査されうると考えておいてください。

 

PCR検査の結果が出るまでは数日かかる

新型コロナでは、クリニック内でPCR検査を実施していて、即日あるいは翌日に検査結果が分かることは珍しくありません。しかし、2023年8月18日時点、残念ながら、日本の医療機関内ではPCR検査を用いたエムポックスの診断ができません。研究用に承認されたPCR検査はありますが、臨床の現場で診断のために使用できるPCR検査がないためです。そのため、行政検査というものが必要です。

 

具体的には、次のような流れになります。

1:患者さんが何らかの症状を認めて医療機関を受診します
2:医療機関で、問診と診察の結果、医師からエムポックスが疑われます
3:患者さんは受診した医療機関にて検体を採取されます
4:医療機関は保健所に、エムポックスの疑いがある患者がいると連絡を行います
5:検査対象と判断した場合、保健所が地方衛生研究所や国立感染症研究所に連絡を行います
6:地方衛生研究所や国立感染症研究所で検査実施可能と判断した場合、保健所が医療機関を訪問して検体を持ち帰ります
7:地方衛生研究所や国立感染症研究所に検体を提出します
8:地方衛生研究所や国立感染症研究所でPCR検査を実施します
9:結果が分かったら保健所に結果が伝えられます
10:保健所は医療機関に結果を伝えます
11:最後に医療機関が患者さんに結果を伝えます(図1)

 

PCR検査自体にかかる時間は概ね数時間程度ですが、このように、複数の機関との連絡が必要であるため、受診から検査結果が患者さんに届くまで数日かかることがほとんどです。そのため、患者さんの状態が悪くなければ、外来を受診して必要な検査を実施した後は一度帰宅して、自宅で検査結果を待つことになります。

 

図1.エムポックスの確定診断のための検体と検査結果報告の流れ

 

症状が似ている他の病気:性感染症、水痘、麻疹など

エムポックスは、主に性行為における接触で感染し、皮疹、発熱、リンパ節の腫れが主な症状です。皮疹は、特に性器や肛門周囲に出ることが特徴です。皮疹は色々な特徴がありますが、多くの場合、水痘のように水ほうを伴います。また、特に肛門性交渉で感染した場合は、直腸炎を起こすこともあります。

これらのことから、【1】全身の皮疹、【2】性器・肛門周囲の皮疹、【3】直腸炎の3つ分けて、似ている病気について考えていきます(表1)

 

表1.エムポックスに似た症状が出る病気

症状 主な病気

【1】全身の皮疹

水痘、麻疹、風疹、梅毒、急性HIV感染症、手足口病、伝染性単核球症、ツツガムシ病、日本紅斑熱など

【2】性器・肛門周囲の皮疹

性器ヘルペス、梅毒、帯状疱疹、毛嚢炎、伝染性軟属腫など

【3】直腸炎

淋菌、クラミジア、梅毒、性器ヘルペス、赤痢アメーバ症など

エムポックスと、表1の感染症は症状がとても良く似ていることがあります。そのため、症状のみだけでエムポックスと、それ以外の感染症を完全に区別することができません。なかでも麻疹や水痘は皮疹が似ているため特に区別がつきにくいうえ、非常に感染力の強い感染症ですので注意が必要です。

また、エムポックスは主に性行為における接触で感染するので、エムポックスと梅毒や、エムポックスとHIV感染症といったように、エムポックスと同時にこれらの性感染症にかかっていることもあります。エムポックスを疑う症状があった人は、他の性感染症の可能性も考えておくことが大切です。

似ている病気についての具体的な解説は、「国立国際医療研究センター 国際感染症センター. エムポックスの診療指針 ver 2.1(注:皮膚症状の写真が含まれています)」に記載されているのでご参照ください[5]。

 

おわりに

2023年8月18日時点、日本では医療機関内でエムポックスのPCR検査を行うことができません。皮膚病変などを保健所経由で地方衛生研究所に提出して行政検査で診断する必要があります。そのため、確定診断のために数日待つ時間が必要となっています。検査の結果を待つ間も、皮膚病変を覆う、トイレなどの共有部分を消毒する、性交渉などの皮膚粘膜の接触を避けるなどの感染対策をしっかり行うようにお願いします。(感染対策について詳しくは「サル痘の感染はどのようにして対策したらよいのか?」を参照してください。)

今後もコラムを通じてエムポックスについて解説していきますので、正しい知識を身につけ、過度に恐れず正しく恐れましょう。

 

【エムポックス関連コラム】

1. 世界中で感染拡大しているサル痘とは? 日本でも今後流行するのか?
2. サル痘の感染はどのようにして対策したらよいのか?
3. これってサル痘の症状?
4. 女性や小児におけるサル痘の特徴
5.サル痘(エムポックス)はもう心配しなくて良いのか?
6. (本コラム) サル痘(エムポックス)は、どうやって診断するの?

 

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

▲ ページトップに戻る