2023.11.07 | コラム

過去最多の「プール熱」ってなに?

感染症内科医Dr.伊東が解説

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子どもを中心に感染するプール熱の患者数が過去10年で最も多い状態が続いています。このコラムでは、感染症内科医として皆さんに知っておいて欲しいプール熱について説明します。

プール熱とは

プール熱は、咽頭結膜熱とも呼ばれており、アデノウイルスによっておこる感染症です。主に子どもにみられ、次のような症状があらわれます。

 

【主な症状】

  • 発熱
  • のどの痛み
  • 結膜炎
    • 目の充血
    • 目の痛み
    • 目やに

 

プールでの接触やタオルの共用によって感染することがあるために、プール熱と呼ばれていますが、必ずしもプールでのみ感染するわけではありません。

 

どのくらい流行ってる?

通常、プール熱は6月ころから徐々に流行しはじめ、7-8月にピークとなりますが、最近の傾向として、冬にも小流行が見られることがあります。

2023年第42週(10/16-10/22)の時点で、定点あたりのプール熱の報告数*は2.16人となっており、過去10年間の同時期と比較してかなり多くなっています(図1)。都道府県別の上位は沖縄県(6.90)、福岡県(6.33)、奈良県(5.47)、佐賀県(4.00)、大阪府(3.58)、京都府(3.18)、三重県(3.07)となっており、いずれも国の警報開始基準となる1定点当たり3.0人/週を超えています。

*定点あたりのプール熱の報告数:プール熱は、感染症法では、5類感染症定点把握疾患として定められており、全国約3,000カ所の小児科定点医療機関から毎週患者数が報告されています。定点あたりの報告数とは、すべての定点医療機関からの1週間の対象感染症の報告数を定点数で割った値のことで、言いかえると1医療機関当たりの1週間の平均報告数のことです。

 

図1. 2023年第42週までのプール熱(咽頭結膜熱)の定点当たりの報告数(過去10年)(国立感染症研究所. 感染症発生動向調査週報(IDWR)速報データ 2023年第42週, 過去10年間との比較(更新日2023/11/6)をもとに作成)

 

感染経路と予防は?

感染力が非常に強いウイルスで、咳やくしゃみなどの飛沫によって感染する「飛沫感染」と、目やになどが感染源となることによるタオルの共用や手指を介した「接触感染」によって感染します。

 

【プール熱の主な感染経路】

  • 飛沫感染
    • せき
    • くしゃみ など
  • 接触感染
    • 感染者の目やに、唾液、鼻水などに接触することによる
      • タオルの共用
      • 手指を介して など

 

また、プールを介した場合には、汚染した水から結膜への直接侵入が考えられています。

 

プール熱の予防法

アデノウイルスにはアルコール消毒が効きにくいため、予防としては、流水や石けんによるこまめな手洗いが効果的です。咳やくしゃみなどの症状がある場合には周囲に感染を広げないように、マスクを着用し、口と鼻をティッシュ等でおおうなどの咳エチケットが大切です。また、患者さんとの密接な接触を避け、タオルの共用はせずに個別に使うようにしてください。

プールを介しての流行に対してはプールの塩素濃度を適正(遊離残留塩素濃度が0.4mg/L以上、1.0mg/L以下)に維持することが対策となります。

 

保育園や学校はいつまで休むべきか

学校保健安全法では、主要な症状がおさまった後2日を経過するまで出席停止とされています。しかし、目の症状が出始めてから14日間はウイルスが排出されますので、症状が改善した後もむやみに目や口に触れたり、こすったりしないように気をつけてください。また、流水・石けんによる手洗いを続ける意識も重要です。

 

なぜ今流行るのか?

今なぜこれだけ流行しているのか原因ははっきりしていません。夏休み期間中に例年と同じくウイルスが全国で流行し、その後学校が再開したのをきっかけとして第35週以降(8月28日-9月3日)で急増し、その後流行がさらに拡大したと考えられます。

 

おわりに

多くのウイルス感染症と同じく、プール熱に対する特別な治療法はなく、基本的には自然に改善します。プール熱だけでなく、インフルエンザ、新型コロナウイルスなどの流行も続いておりますので、手洗いや換気、必要に応じてマスクを着用するなど基本的な感染対策を継続することが大切です。

 

 

参考文献

1. 国立感染症研究所.:感染症週報. 2023年第42週.

2. 国立感染症研究所.:咽頭結膜熱とは.

3. CDC.:Adenoviruses.

4. American Academy of Pediatrics. Red Book 2018-2021 31st Edition.

5. David L. Control of Communicable diseases 21st Edition.

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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