2023.11.14 | コラム

新たに承認されたRSウイルスワクチンは打ったほうがいいのか?

重症化しやすい人、ワクチンの予防効果、接種できる人など

新たに承認されたRSウイルスワクチンは打ったほうがいいのか?の写真

60歳以上の成人を対象にGSK社のRSウイルスワクチンが、2023年9月25日に厚生労働省によって製造販売が承認されました。今後日本において、60歳以上の人は、ワクチン接種を受けられるようになります。このコラムでは、感染症内科医として皆さんに知っておいて欲しいRSウイルスとそのワクチンについて説明します。

RSウイルス感染症は何が怖い?

RSウイルス感染症は、RSウイルス(RSV)による呼吸器の感染症です。乳幼児に多く、冬を中心に流行します。ほとんどの子どもは2歳までに一度はRSウイルスに感染するのですが、生涯にわたり何度も感染するため大人でも見られます。

通常、大人や年長児が感染した場合は、発熱、せき、鼻水などの症状だけで自然におさまります。しかし、乳児が感染した場合、重症化して細気管支炎や肺炎になり、入院治療が必要になることがあります。その場合、風邪のような症状に続いて次のような症状が出ます。

 

【RSウイルス感染症が重症化した時の症状】

  • 咳がひどくなる
  • 喘鳴(ヒューヒュー、ゼーゼーという呼吸音)がでる
  • 呼吸困難になる など

 

一方、大人でも免疫の働きが低下した高齢者では、重症化するリスクがあります。RSウイルス感染症により、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、慢性心不全などの持病が悪化し、肺炎、入院、最悪は死亡につながります。肺炎は日本で5番目に多い死因となっており、特に気をつけるべき病気です。米国の研究では、60歳以上においてRSウイルス感染症で入院した60歳以上の患者さんのうち、約半数が肺炎を起こしていたことが報告されています。日本においてもRSウイルス感染症による60歳以上の入院と院内死亡は、それぞれ約63,000人、約4,500人と推定されています。以上から日本でもRSウイルスが肺炎を起こして亡くなるケースが多数あると考えられるため、高齢者、特に持病がある人にとっては、RSウイルス感染症は無視できない存在です。

 

RSウイルスワクチンとは?

このように、日常的によく見る感染症でありながら一部の人では重症化してしまうことから、RSウイルスワクチンは開発優先度の高いワクチンとして厚生労働省に指定されていたものの、長い間実用化されていませんでした。そのような中で、米国国立衛生研究所(NIH)により融合前Fタンパク質に関する基礎研究が発表されました。融合前Fタンパク質というのは、RSウイルスがヒトに感染するステップで重要な働きをするものです。この知見に基づいて各社でワクチン開発がすすめられました。そして今回、ついに、GSK社のRSウイルスワクチンが承認されることとなりました。

 

予防効果はどれくらい?

今回の承認にいたった、GSK社が開発したワクチンに関する元の情報は2月16日号のNew England Journal of Medicineに出ています。この研究では、高齢者の感染予防に関する有効率が82.6%、重症化予防に関する有効率が94.1%でした。また持病のある人でも94.6%と高いワクチンの有効性が認められています。

接種後の有害事象としては、注射部位の疼痛、疲労が最も多く、ほとんどの症状は軽度から中等度で一時的なもので、平均1-2日で消失しました。重篤な有害事象については、プラセボ(偽薬)と同程度であり、このワクチンの安全性は高いと思われます。

 

打つといいのは誰?

現時点では、60歳以上の人が接種可能です。今後、肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンのように定期接種に含まれるようになるかは未定です。表の持病がある人はRSウイルス感染症にかかると重症化するリスクが高いため、ワクチンの恩恵を受ける可能性が高いと考えられます。

 

表. RSウイルス感染症の重症化リスク因子

・肺疾患(慢性閉塞性肺疾患[COPD]や喘息など)
・慢性心血管系疾患(うっ血性心不全や冠動脈疾患など)
・糖尿病
・神経疾患
・腎臓疾患
・肝臓疾患
・血液疾患
・免疫不全
・医療者が重症呼吸器疾患のリスクを高めると判断したその他の基礎疾患

 

RSウイルスワクチンは単回接種が推奨されていますが、今後時間の経過とともに再接種が必要かどうか(必要な場合は、いつ必要か)を判断するための研究が進行中です。

 

おわりに

現在、各社のRSウイルスワクチンの開発および承認申請の競争が激化しており、今後、乳児のRSウイルス感染症予防目的での妊婦へのワクチン接種が日本でも承認されると考えられています(妊娠中に母体にワクチンを接種することにより、母体から胎児へRSウイルス中和抗体が移行し、感染を新生児のうちから予防します)。

 

参考文献

1. CDC:Respiratory Syncytial Virus Infection (RSV)

2. 国立感染症研究所:IASR Vol. 43 P79-81:2022年4月号

3. 国立感染症研究所:IDWR 2023年第28号<注目すべき感染症> ヘルパンギーナ・RSウイルス感染症

4. Papi A, Ison MG, Langley JM, Lee DG, Leroux-Roels I, Martinon-Torres F, Schwarz TF, van Zyl-Smit RN, Campora L, Dezutter N, de Schrevel N, Fissette L, David MP, Van der Wielen M, Kostanyan L, Hulstrøm V; AReSVi-006 Study Group. Respiratory Syncytial Virus Prefusion F Protein Vaccine in Older Adults. N Engl J Med. 2023 Feb 16;388(7):595-608.

5. Savic M, Penders Y, Shi T, Branche A, Pirçon JY. Respiratory syncytial virus disease burden in adults aged 60 years and older in high-income countries: A systematic literature review and meta-analysis. Influenza Other Respir Viruses. 2023 Jan;17(1):e13031.

6. 厚生労働省(MHLW):Handbook of Health and Welfare Statistics 2022.

7. 厚生労働省:予防接種に関する基本的な計画2014

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

▲ ページトップに戻る