2024.02.02 | コラム

急増する「人食いバクテリア」ってなに? 予防方法はあるの?

Dr.伊東が解説する劇症型溶血性連鎖球菌感染症の予防と受診の目安

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致死率が非常に高く、「人食いバクテリア」と呼ばれる劇症型溶血性連鎖球菌感染症の2023年の患者報告数は941人と過去最多となりました。主な原因はA群溶血性連鎖球菌という菌による感染症です。ところが、実はこの細菌に感染してもほとんどのケースでは劇症型まで至ることはありません。一方で、劇症型溶血性連鎖球菌感染症を起こしやすい人や、劇症型になりやすい株が知られています。本コラムでは、予防方法や、症状がある時の受診のタイミングなどについて解説いたします。

人食いバクテリアとは?

劇症型溶血性連鎖球菌感染症(streptococcal toxic shock syndrome : STSS)は、しばしば「人食いバクテリア」という病名で呼ばれています。約30%の患者さんが亡くなる致命率の非常に高い感染症で、次のような特徴があることがわかっています。

 

【劇症型溶血性連鎖球菌感染症の特徴】

  • 急激かつ劇的に病状が進行する
    • 発症からの進行が速く時間の単位
  • 腕や脚の痛み、腫れ、発熱、血圧低下などが見られる
  • 発症後数十時間以内に、皮膚軟部組織の壊死多臓器不全を来たしショック状態に陥る
  • 子どもから大人まで広い年代で発症する可能性がある
    • 特に30歳以上の大人に多いのが特徴

 

劇症型溶血性連鎖球菌感染症の原因菌の多くはA群溶血性連鎖球菌Group A Streptococcus pyogenes : GAS)という細菌です。飛沫感染接触感染で広がります。一方で、A群溶血性連鎖球菌の感染症すべてが劇症型を起こすのかというとそうではありません。いわゆる「のどのかぜ」の原因で知られる溶連菌の一種であり、子どもの咽頭炎皮膚軟部組織感染を起こすありふれた細菌です。劇症型になることは非常にまれです。劇症型になるメカニズムとしては、宿主側の要因(65歳以上、皮膚軟部組織感染症、外傷、糖尿病などの基礎疾患)と細菌側の要因が複雑に関与しており、未だ解明されていない点も多いのが現状です。

 

A群溶血性連鎖球菌の流行状況

日本では、劇症型溶血性連鎖球菌感染症は5類全数把握疾患で、診断した際には7日以内に保健所に届出を行います。また、劇症型ではないA群溶血性連鎖球菌による咽頭炎は小児科定点把握疾患となっており、定点として指定された医療機関は、発生状況を週ごとにとりまとめて保健所に届け出を行っています。

新型コロナウイルス感染症の流行期間中の2020-2022年には、劇症型溶血性連鎖球菌感染症の報告数は減少していました。しかし、2023年の夏以降、50歳未満を中心として急増しました。また、劇症型だけでなく、同時期頃からA群溶血性連鎖球菌の咽頭炎の患者も急増しています。劇症型溶血性連鎖球菌感染症の増加は、日本だけのことではありません。ヨーロッパ諸国(イギリス、アイルランド、フランス、オランダ、スウェーデン、スペインなど)でも、2022年後半から2023年にかけて劇症型を含む重症のA群溶血性連鎖球菌感染症の増加が報告されています。

日本の感染者数が増加したはっきりとした原因はわかりません。5類化以降の感染対策の緩和とインバウンドおよびアウトバウンドにより、病原性が高い株が国内へ入ってきた影響が要因の一つとして考えられます。実際に、日本国内の劇症型溶血性連鎖球菌感染症の患者では、病原性と伝播性が高いA群溶血性連鎖球菌であるS. pyogenes M1UK lineage(UK系統株)が増加しています。

UK系統株に感染しても劇症型となるのはまれですので過度に心配しすぎる必要はありませんが、次に説明する予防方法と受診の目安はぜひ知っておいてください。

 

予防方法

A群溶血性連鎖球菌感染症を予防するワクチンは開発中であるものの、まだありません。しかし、A群溶血性連鎖球菌の伝播は接触感染飛沫感染によって起こるので、この2つの感染経路を遮断することが大切です。

 

  • 接触感染対策
    • 手洗い、手指消毒
    • 傷がある場合には、傷をきれいに保つ
    • 傷や皮膚感染症がある場合には、温泉、プール、川や海に入るのは避けたほうが良い
  • 飛沫感染対策
    • マスクの着用が有用

 

これらを行うことで、他の感染症予防にもつながります。

 

早期受診の目安

劇症型をはじめとした重症のA群溶血性連鎖球菌感染症は、短時間で急激に悪化するため、早期の受診が必要です。受診の目安としては、次のようなものがあります。

 

1)急速に広がる皮膚の赤みや熱感・腫れがある
2)痛みの程度が強い、または赤みのある部位を超えた痛みがある
3)意識がはっきりしない

 

いつもとは比べ物にならないほどつらい、また周りの人から見て普段と比べて様子がおかしい場合には、ためらわずに受診してください。受診に適している診療科は内科や皮膚科です。夜間や休日であれば救急科を受診するなど、速やかに医療機関へ行くことが重要です。

 

おわりに

持病がない人が突然、劇症型溶血性連鎖球菌感染症を発症する可能性はあるものの、本コラムで紹介したような既知のリスクもあります。周囲に持病がある人がいる際には、自分だけでなくその人のためにも手洗い、手指消毒、マスクといった基本的な感染対策を継続することが大切です。

 

参考文献

1. 国立感染症研究所. A群溶血性レンサ球菌による劇症型溶血性レンサ球菌感染症の50歳未満を中心とした報告数の増加について(2023年12月17日現在)

2. 国立感染症研究所. 劇症型溶血性レンサ球菌感染症とは

3. 日本感染症学会. 侵襲性A群レンサ球菌感染症.

4. Brouwer S, Rivera-Hernandez T, Curren BF, Harbison-Price N, De Oliveira DMP, Jespersen MG, Davies MR, Walker MJ. Pathogenesis, epidemiology and control of Group A Streptococcus infection. Nat Rev Microbiol. 2023 Jul;21(7):431-447.

5. 国立感染症研究所. IDWR.2023年第51週(12月18日〜12月24日)、2023年第52週(12月25日〜12月31日):通巻第25巻第51・52合併号.

6. UK Health Security AgencInvasive group A streptococcal infection.

7. WHO. Increased incidence of scarlet fever and invasive Group A Streptococcus infection - multi-country

8. Mohapatra RK, Kutikuppala LVS, Mishra S, Tuglo LS, Dhama K. Rising global incidence of invasive group A streptococcus infection and scarlet fever in the COVID-19 era - our knowledge thus far. Int J Surg. 2023 Mar 1;109(3):639-640.

9. Maldonado-Barrueco A, Bloise I, Cendejas-Bueno E, López-Rodrigo F, García-Rodríguez J, Lázaro-Perona F. Epidemiological changes in invasive Streptococcus pyogenes infection during the UK alert period: A molecular comparative analysis from a tertiary Spanish hospital in 2023. Enferm Infecc Microbiol Clin (Engl Ed). 2024 Jan;42(1):34-37.

10. CDC. Streptococcal Toxic Shock Syndrome: All You Need to Know

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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